サイド

 ぼやけた昼下がりに目を細めれば、にわかにアナウンスが鳴りわたる。
……まもなく二番線に、電車が到着します。
プラットフォームには少しばかりの緊張が走る。ベンチに座っていた人は腰を上げ、列に並んでいる人は足を揃え直し、列の先頭に立つ私は一歩左へ除けて、ドアから降りてくる人を迎える準備を整えた。
……黄色い線の内側まで、お下がりください。
別に不安になったわけではないけれど、一応は確認すべきだと思い、黄色い線もとい点字ブロックへ、あくまで形式的に目をやる。淡く照らされているので、黄色が剥げ落ちているのがハッキリとわかる。
 もしも岩石が生き物だったら、これはきっと枯れた石そのものなのだろう。くすんだ石目が死灰のようだった。丁寧に並ぶ突起の数々からも、鼓動と呼べるものは聞こえない。
 プラットフォームの端にこべりつく灰…………だから黄色い線なんて、どこにも見当たらなかった。私には見えなかった。ひょっとしたら目の見えない人には、デコボコの黄色い線が見えているのだろうか。その人だけの色が見えているのだろうか。
 電車が来た。つんざく音を撒きながら、ゆっくりと向かってくる。冷たい函に落ちた影が、滑るように左から、プラットフォームを染め上げていく。深海の青。降りる人は誰もいない。私は足を突きだして線をまたいだ。靴に重なった影の色は、まだ知らない海の底だった。

このおはなしはここでおしまいです。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました。